発熱
小児科においては「熱が出ました」との訴えで医院や病院を受診するお子さんが、最も多いようです。特に夜間や休日診療所、救命救急センターにおいてはこの傾向が顕著です。
そもそも熱が出た(発熱)とはどのような状態を言うのでしょうか?
健康な状態を保つためには体温を一定の狭い範囲に保つ必要があり、熱産生(熱を上げる働き)と熱放散(熱を下げる働きが)でバランスを取っています。この 温度調節の働きをしているのが脳の視床下部と呼ばれる部位です。その設定温度が熱産生側に傾き、体温が一定範囲内を超えて上昇した状態が発熱であり、一般 的には37.5℃以上を発熱とみなしています。小児は成人に比べ代謝活性が高いため体温は高めですし、また同年齢のお子さんの間でも差があります。また、 一日の内でも、朝方が最も低く、午後から夕方にかけて1℃以内の上昇がみられます。従って、37.0℃から37.5℃の場合、発熱かどうかを健康時の体温 を参考に他の症状をも含め総合的に判断する必要があります。
発熱はウイルスや細菌などから体を守る免疫系を活性化し、その増殖を抑えるいわゆる生体防御反応(自分の体を守る働き)のひとつと考えられます。ウイルスや細菌は熱に弱いのです。また必要以上に高熱にならないように調整されてもいます。そのため、脳やその他の臓器に障害を起こす可能性がある41℃以上の発熱が持続することは特殊な例を除けば殆どありません。 長く続くけいれんや髄膜炎・脳炎などの脳への感染症を除くと40℃ぐらいの高熱が続いても脳が障害されるということは普通では考えられません。発 熱すると体に気だるさを自覚させ、休息を促します。また、食欲が低下し、元気がなく、ぐったりし寝てばかりいることがよくあります。これも実は体を休めて 体力を温存させているのです。高い熱が出る前には寒気がするのも、体をぶるぶる震わせ(悪寒・戦慄)熱を発生させるためです。同時に発生した熱を逃がさな いように末梢の血管が収縮するため、手足が冷たく、顔色も悪くなります。この時期が一番つらい時ですが、30-60分も経つと、今度は熱が上がりきりふう ふう言って暑がるようになり、少し楽になり眠くなります。
発熱が認められる時には、先ず細菌およびウイルスの感染が考えられます。しかし、熱の高さだけでは判断出来ません。年齢を考慮し、顔色および呼吸、咳の状態、下痢・嘔吐などの随伴症状に注目し、全身状態を総合的に判断する必要があります。
- 高熱があっても、元気があり全身状態が良好であれば重症である可能性は、まず少ないと考えられます。診療のない時間帯の発熱であれば翌日まで様子を見てもいいでしょう。
- “ぐったりしている”場合とか“うとうとし、直ぐに眠ってしまう”、“呼びかけても反応しない”など意識レベルが低下している場合、けいれんを起こした場合には中枢神経系の重症感染症の可能性が高いため直ちに受診する必要があります。
- 咳が強く、ゼイゼイと息苦しそうな時には受診が必要です。
- 嘔吐・下痢が強く、尿が出にくくなってきた場合脱水が強いため、急いで受診して下さい。
- 特に注意が必要なのは、生後3-4ヶ月までは他の症状を伴うことが少なく、重症感染症が原因であることが多いため、直ちに小児科への受診が重要な事です。
発熱時の対処としては、寒気がして、手足が冷たく、顔色が悪い時、さらに悪寒・戦慄がみられる時には湯たんぽや毛布、タオルなどで体を温めてあげてくだ さい。暑がる時には衣服は薄着にし、体をぬるま湯の濡れタオルで拭いたり、首のまわりや脇の下、股のあたりを冷たいタオルで冷やすと良いと思います。
赤ちゃんには冷やし過ぎないように注意が必要です。
額を冷やしても熱を下げる効果はあまりありませんが、気分が良いならしてあげましょう。また、熱が高い時には、はく息や汗から水分が失われますので、嘔吐がなければ水分は欲しがるだけあげましょう。
受診時、発熱状態の詳しく具体的な説明があれば、診断や経過を看るのに多いに役立ちます。出来れば起床時、午前中、午後、夕方の4回決まった時間に熱を 計り、表にして頂ければ(熱型表の作成)一目瞭然です。熱の高さも大事ですが、熱が続いている期間の方がさらに重要になることが少なくありません。特に5 日を超える発熱には注意が必要です。
熱さまし(解熱剤)は熱によるつらさを一時的に軽くするための薬であって、病気自体を治す薬ではありません。熱 さましを使い熱が下がると元気がでてきたように錯覚しますが、無理に下げた熱は薬の効果がなくなると、また直ぐに上がってきます。熱性けいれんを心配され ますが、これは熱の上がりかけによく起こり、熱が上がりきった状態ではむしろ起こりにくいと言われています。熱さましを頻回に使い体温を下げたり上げたり することによりけいれんを起こす機会を増やしていることになります。また、前にも述べた通り発熱は生体防御反応(自分の体を守る働き)のひとつであり、こ れを抑えることにより病気を長引かせる可能性も指摘されています。従って、お子さんが熱を出していても、おとなしくしている時やすやすや眠っている時には 無理に起こし熱さましを使うことはむしろ害になることがあり、また病気の経過を解りにくくする可能性もあります。熱が高く機嫌が悪い時および眠れない時、水分が摂れない時などには熱冷ましを使えば良いでしょう。基礎疾患(熱性けいれんや心臓病、糖尿病などの特別な病気を持っている)がなければ39℃を目安にして下さい。
日射病や熱射病の場合は例外で、速やかに冷やし熱を下げましょう。
<体温計について>
体温計には水銀体温計(実測式)と電子体温計(平衡温予測計)があり、種類の違いにより測定値が微妙に異なります。水銀体温計は正確ですが、脇の下で計る 場合10分間が必要です。電子体温計の大部分が予測式であるため多少高く出たり、低く出たりしますが、短時間で計れるので便利です。測定前には脇の下の汗 を拭き、体温計の先をしっかり脇の下に挟んで下さい。